午後9時。仕事から帰った俺は犬の散歩に出掛けた。先日届いたマイケルジャクソンのアルティメットコレクションをiPodで鑑賞しつつご機嫌な出発である。
アパートを出て直ぐの所で犬がウンコをした。それを拾っていつもの公園へ。フェンスばりのグラウンドみたいな所で犬を放し、リードを一端鞄にしまおうとして気がついた。
鍵がねぇ。
前にも説明したことがあるが、我が家の鍵はボタン式である。中からボチっと押してドアを閉じることで施錠され、うっかり鍵を持たずに家を出ることが可能。
3ヶ月前にも鍵を忘れて部屋を出て偉い目にあった。
しかも今日は財布も携帯も持ってねぇ。ヤバイ。
あー、今までは散歩に出るのに鍵なんかかけていなかったのに、この間猫が逃げて防犯意識が高まったりしたばっかりにもう! どうすんだよこのバカ!
などと自分を責めてみても始まらない。とりあえず犬を連れて帰宅する。
やはり鍵はかかっていて、今日に限ってトイレの窓もあいていない。ポケットにも鞄にも鍵はない。ちゃんと持って出たような気がしたんだが、気のせいだったのか。オノレ。俺のボケ野郎め。
さてどうするべきか。
しばし考えて、俺はおもむろに洗濯機の下のブロックを手に取ると、そいつでトイレの窓を叩き割った。
さて、トイレの窓の鍵は開いた。しかし問題は、窓を開けただけでは中に入れないことである。
頭から入ると狭いトイレの中で逆立ち状態になり、何かとんでもない不幸に見舞われてヘタすると憤死する可能性がある。このツキのなさにはそんな恐れさえ感じさせる。ここは慎重になるべきだろう。
トイレの窓の高さ的に両脚をそろえて入るのも不可能。窓をガタガタしてみたが、何かが引っかかっているのか、そういう構造なのか、窓枠からサッシが外れない。困った。
しばし考え、ヒビの入ったガラスを全てたたき落として、サッシをへし折る勢いで窓枠から引きはがした。内側の窓は普通に外れた。オーケー。次いってみよう。
頭からトイレに侵入し、最近の減量行為に付随したストレッチのおかげもありスルリと脚を入れてトイレ内に着地。
トイレの窓、しかも外側なんてこの俺様が掃除するわけがなく、ナイキのジャージとTシャツは泥だらけだ。オノレ俺め。なんてものぐさかつボンクラなんだ。
まぁ、とりあえず奥屋への侵入は果たした。
しかしここからがまた問題である。
なんとトイレのドアには外から鍵がかけられているのだ。
というのも我が家のトイレのドアは、個室内から鍵をかけることは可能だが、素の状態ではしっかり閉まらない。恐るべし築35年、ドアノブは飾りであり、内部の金具がカチっと嵌るようになっていないのだ。
一般家庭なら内側に鍵さえあれば問題ないし、一人暮らしなら鍵すら必要ないかもしれない。しかし我が家には性悪な猫がおり、この猫様はどんなに新鮮な水を与えようとトイレの水を飲みたがる希有なる属性を持っていた。すなわちしっかり閉まらないトイレのドアをこじ開けて便器から水を飲みやがるのだ。勘弁して欲しい。
従って俺はトイレの外側から施錠出来る金具を取り付けたのだった。
時折施錠するのを忘れることがあったが、最悪なことに今日はしっかりハマっている。何ですか。何なんですかこの用心深さは。いつものウッカリはどこへいったの俺。
仕方なくドアをガンガン蹴りつけてオープンを試みる。最悪トイレのドアの窓もブチ破ろうかと思ったが、幸い5〜10回くらいの蹴りで外側の錠の金具が歪んで扉は開いた。Congratulations!
犬を家の中に招き入れる。いつもなら4kmは走るんだが、今日は1km未満だ。しかしかかった時間と消費カロリーは恐らくいつもと変わらないくらいであろう。
手を洗い、汗を拭き、麦茶を飲んで一息つく。
ていうかもうこの鍵絶対変えてやる! アホか! だいたいピッキングツールで15秒保たないとかありえねぇんじゃ! ウンコ!
と、下駄箱の上に置いたはずの鍵を確認。
鍵がねぇ。
おかしい、鍵を手に持った記憶は曖昧だが、確かにここで見たぞ。どこだ。手に持ったまま移動して何処かにうっかり置き忘れたのか?
さんざん探したがどうにも出てこない。ありえない。
ふと思いついてサンダルを履き、家を出た。
犬のウンコを拾った地点に落ちていました。
窓ガラス修理代 16500円
有給消費 1日
空き巣的体験 priceless